苫小牧東部地域におけるカーボン
ニュートラルの推進等に関する調査業務
産業セクターから排出されるCO2を削減するには 再エネ・水素・CCUSが重要であり
3要素すべてが揃う苫東地域でこれらを有機的に連携させカーボンニュートラルを実現します。
エグゼクティブサマリー
- 大規模に再エネを導入し、自営線によって送電する「再エネマイクログリッド」を構築することで、系統電力よりも安価に再エネ電力を供給する。
- 地域内で消費しきれない再エネ電力で水素・アンモニアを製造し、電化が難しい熱や運輸用途に適用することで、非電力由来のCO2排出を削減する。
- 苫小牧の特色であるCCUSにも接続し、再エネ・水素だけでは削減しきれないCO2排出をゼロ化するとともに、合成SAF等の製造により苫東域外の脱炭素化にも貢献する。
- 産業間を超えた連携により、カーボンニュートラルな産業地域を実現する将来ビジョン「苫東GX HUB構想」を提言し、当該構想を基に産業誘致を推進する。
カーボンニュートラルを実現する3つのインフラ
2050年にカーボンニュートラルを実現するためには、産業セクターにおける脱炭素化は喫緊の課題である。一方、産業セクターは大量の電力や熱源を必要とする業種も多く、その脱炭素化を個社単独で実現するのは難しい実態がある。このような背景のもと、多くの産業が立地する産業地域において、脱炭素化に資するエネルギーインフラを一括して整備するニーズが高まっている。
EPIは我が国最大の産業地域である苫小牧東部地域(以下、苫東地域)に着目し、苫東地域の開発を推進する国土交通省北海道局、株式会社苫東、株式会社日本政策投資銀行、北海道、苫小牧市と連携して脱炭素化に資するエネルギーインフラの導入可能性について検討を行った。
苫東地域においてカーボンニュートラルを実現するためには、広大な土地を生かした大規模な再エネ導入と、電力以外からのCO2排出を削減するために水素・アンモニアやCCUSの導入を図る必要があり、これら3つのインフラでカーボンニュートラルな産業地域を実現するコンセプトを提言した(Figure 1)。
Figure 1 カーボンニュートラルを実現する3つのインフラ
広大な土地を生かした大規模な再エネ導入
再エネ電力を安価に供給するためには、苫東の広大な土地を生かして大規模に再エネ電源を開発し、スケールメリットを得ることが重要である。計画の策定にあたっては、自然環境や史跡等との調和や災害等による事業リスクを考慮し、企業が既に立地している土地や分譲計画がある土地を除外した上で、日射量や風況等から再エネの導入可能性を検討した(Figure 2)。
Figure 2 再エネ導入の検討プロセス
地域で消費できない再エネ電力による水素製造
苫東地域における再エネ導入ポテンシャルを推計した結果、太陽光発電は稼働済みの236MWに加えて、新たに560MW程度の導入余地があるほか、バイオマス発電は124MW、風力発電とゼロエミッション火力は域外供給を除いた苫東地域で利用できる電力として、それぞれ118MW、70MW相当と推計し、合計で約1,100MW、発電量に換算して2,000GWh以上の再エネ電力を導入できることが明らかとなった。
一方、苫東の電力需要は200GWh程度であり、今後想定される産業誘致に伴う需要増を加味しても、年間1,000GWh程度は消費できない可能性がある。この再エネ電力を水素やアンモニアの製造に活用することで、電化が難しい熱や運輸などの非電力由来CO2の排出削減に貢献する。1,000GWhの再エネ電力を水素製造に活用する場合、年間2万トン程度の水素を製造可能と推計した(Figure 3)。
Figure 3 再エネ発電と水素製造量
苫東水素拠点と広域における水素・アンモニア連携
苫東地域は主に港湾側と内陸側に工業用地があり、港湾側には石炭火力発電所などが存在しているが、立地企業の多くは内陸側の工業用地に集積している。従って、熱需要は内陸側のエリアに集中しており、これを水素・アンモニアに代替した場合、水素換算で年間約3万トンの水素需要となる。前述の水素製造量と比較すると概ね一致することから、地産地消型のモデルとしてFigure 4中央に示す「苫東水素拠点」を提案した。
なお、海側の港湾(東港)では石炭火力発電所のアンモニア代替が計画されているほか、より広域では苫小牧港の西港において、石油精製プロセスへの水素供給が検討されている。
苫東で検討した地産地消モデルと近隣の2拠点が相互に連携することで、不足・余剰発生時に水素を融通し、安定性を高めたサプライチェーンモデルとして取りまとめた(Figure 4)
Figure 4 苫東水素拠点と広域における水素・アンモニア連携のイメージ
苫東GX HUB構想
苫東地域でカーボンニュートラルを実現するためには、再エネや水素・アンモニアだけでは削減しきれないCO2排出をゼロ化できるCCUSに関する取り組みも不可欠である。
そこで、苫小牧で計画されているCCUS事業との接続を含め、苫東に再エネ・水素・CCUSの3つのエネルギーインフラを整備し、誘致した産業も含めた立地企業のカーボンニュートラル化を実現する将来ビジョン「苫東GX HUB構想」を提言した(Figure 5)。
Figure 5 苫東GX HUB構想のイメージ
構想の実現に向けて
構想とは、策定が目的ではなく、その構想を具現化し、それをきっかけとしたさらなる産業誘致まで連続的に実現させることが大切である。我が国政府では、再エネや水素の普及に向けた様々な施策が計画されているところであるが、こうした施策を上手に活用しながら、関係者とも連携の上、本構想の実現に向けた包括的な伴走支援を行っていく。