FIP再エネ併設型蓄電池の現状

太陽光発電協会からの委託を請け、FIP再エネ併設型蓄電池の実態調査を実施しました。
コスト構造や収益性を明らかにし、FIP再エネ併設型蓄電池の普及に向けた政策を提言しました。

エグゼクティブサマリー

  • EPIは一般社団法人 太陽光発電協会(JPEA)から委託を請け、令和4年度第2次補正予算「再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業」の間接補助候補3件を対象にFIP再エネ併設型蓄電池のコスト構造、収益性を分析した。
  • 蓄電池のCAPEXは平均で29.5万円/kW、14.9万円/kWhであり、経済産業省の業務・産業向け蓄電池の2020年度目標価格24.2万円/kWhは下回っているが、2030年度目標価格の6.0万円/kWhとは一定の乖離がある。
  • FIP制度では出力制御時の市場収入及びプレミアム減少分が他の時間帯のプレミアムに加算されることから、FIP転する前のFIT価格が高くかつ当月の出力制御が多い場合、FIP太陽光併設型蓄電池の売電単価は40円/kWhを超えることがある。
  • このため、出力制御時に発電電力を充電し他の時間帯に放電することで、アービトラージに加え、上記のプレミアム増加分の収入を得られることから、充放電コストが高くても事業性が成立するケースがある。
  • FIP再エネ併設型蓄電池の普及に向けて、蓄電池コスト削減と、発電インバランス抑制、容量価値・需給調整機能の提供など用途を多様化することで蓄電池から得られる価値を最大化することが求められる。
本稿は「FIP太陽光発電に併設される蓄電池の普及に向けた提言」のサマリーです。詳細レポートはページ下部よりご覧ください。

イントロダクション

 太陽光発電の導入が進む我が国では、太陽光が発電する昼間に電力の供給が余剰となり、太陽光の発電が停止する夕方から夜間にかけて需給がひっ迫する傾向にある。太陽光発電の一層の推進を図るには、発電所出力のピークシフトなどにより電力需給バランスを改善する必要がある。このような背景のもと、経済産業省は「再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業」を通じてFIP再エネへの蓄電池導入を促進している。

 本レポートは、当該事業の一環として、EPIが一般社団法人 太陽光発電協会(JPEA)から委託を請け、令和4年度第2次補正予算「再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業」の間接補助候補3件を対象にFIP再エネ併設型蓄電池のコスト構造、収益性を分析したものである。

FIP再エネ併設型蓄電池の現状

 2023年から2024年にかけて運開したFIP再エネ併設型蓄電池のCAPEXをFigure 1に示す。蓄電池インバータの出力(kW)を分母にした場合、FIP太陽光への蓄電池導入の開発費は0.3万円/kW、設備費のうち蓄電池/インバータは15.4万円/kW、蓄電池監視制御システムは2.6万円/kW、キュービクル/パッケージ/建屋は2.1万円/kW、工事費は9.1万円/kWで、合計29.5万円/kWであった。また、蓄電池容量(kWh)は蓄電池インバータの出力(kW)に対して概ね2時間容量であり、蓄電池容量(kWh)を分母にした場合のCAPEXは14.9万円/kWhであった。この値は我が国の2020年度の目標24.2万円/kWhは下回っているが、2030年度に目指す6.0万円/kWhとは乖離がある。そのため、2030年度のコスト目標実現に向けて、より一層のコスト削減が求められる。

Figure 1 FIP再エネ併設型蓄電池のCAPEX

*1:3件の単純平均値とした。 *2:経済産業省の業務・産業向け蓄電システムの目標価格

FIP再エネ併設型蓄電池の収益性

 FIP再エネ併設型蓄電池の収益性の分析にあたり、蓄電池の充放電コストと売電単価を試算した。まずFIP再エネ併設型蓄電池の放電コストは、充電コストと稼働率の設定により変わる。具体的には、充電コストは出力制御時に充電する場合はゼロ円とみなすケース(Figure 2の左側の積み上げグラフ)と、出力制御時以外の時間帯で充電する場合、充電コストを併設された太陽光の発電原価12.5円/kWhとみなすケース(Figure 2の右側の積み上げグラフ)を想定した。

 稼働率は、毎日1回充放電を繰り替えす理想的な条件と、天候により蓄電池が稼働しない分を考慮し50%とした2ケースを想定した。上記の想定に基づくと、出力制御発生時に充電する場合の放電コストは23.7円/kWh、蓄電池の稼働率を半分とした場合は放電コストは47.5円/kWhとなる。また、出力制御発生時以外の時間帯に充電する場合、放電コストは37.5円/kWh、蓄電池の稼働率を半分とした場合、放電コストは61.2円/kWhとなる。

Figure 2 蓄電池放電コストの考え方

 一方、売電単価はJEPX価格にFIPプレミアムが加算される。FIPプレミアムはJEPX価格が低い場合にFIP価格との差を埋めるために発電事業者に支払われるプレミアムであり、太陽光が余剰となる昼間に多くみられる出力制御発生時においては、出力制御発生時に支払われる予定だったプレミアムを出力制御発生時以外の時間帯に割り当てられる。そのため、FIPプレミアムは出力制御発生の多い月ほど高くなる仕組みである。Figure 3は地域別の出力制御発生割合を示しており、太陽光の導入が多い九州エリアにおける発生割合が多い。月別では太陽光が最も発電する5月の出力制御が多く、九州エリアでは2023年5月の調整比率は約400%であった。

Figure 3 卸市場スポット価格における出力制御発生割合と調整比率(九州エリア)

*1:JEPXデータより0.01円/kWhの発生割合から算出した。 *2:九州電力データよりEPI作成。

 Figure 4にFIP再エネ併設型蓄電池を対象とした収益性の分析結果を示す。分析にあたっては、九州エリアを対象に、2時間容量の蓄電池を20年間毎日充放電させる理想的な条件を想定した。充電コストは、主に出力制御時発生時に充電すると想定しゼロ円とした。放電量を分母にした場合、蓄電池CAPEXは21.9円/kWh、そのうち約1/3の6.6円/kWhが補助で賄われ、OPEXは6.3円/kWh、それらの合計に充放電ロス2.2円/kWhを加えた23.7円/kWhが放電コストとなる。

 蓄電池から得られる収入は、2023年度のうち出力制御頻度が最も多かった、つまりFIPプレミアムの調整比率が最も高かった5月をHighケースとすると55.1円/kWh、逆に出力制御頻度が最も少なかった、つまりFIPプレミアムの調整比率が最も低かった12月をLowケースとすると17.9円/kWhとなる。このように毎月の調整後プレミアムの高低により、蓄電池から得られる収入は大きく変動する。

 従って、本事業で導入された蓄電池の充放電コストは決して安価ではないものの、出力制御時に全て充電できるとの前提のもと、FIPプレミアムが高い月に限っては蓄電池の経済性が成立しうることが分かった。

Figure 4 FIP再エネ併設型蓄電池の収益性(九州エリア)

*1:九州エリアにおいて、2023年度で最も調整比率が小さい2023年12月にて、最も太陽光の出力抑制の多い12月10日の発電実績、JEPX卸価格を用いた場合をLowとした。 *2:一方、最も調整比率の大きい2023年5月にて、最も太陽光の出力抑制の多い5月3日の発電実績、JEPX卸価格を用いた場合をHighとした。 *3:蓄電池導入の付加価値分を放電時の売電単価から放電コストを引いた値と定義した。

FIP再エネ併設型蓄電池の普及に向けた提言

 FIP再エネ併設型蓄電池は太陽光で発電した電力を他の時間帯にシフトすることで電力需給バランスの改善に資することから、普及が期待されている。しかし、現状ではFIP再エネ併設型蓄電池の収益はFIP制度のプレミアムに依存しており、FIPプレミアムは出力制御の発生頻度や政策によって変動することから、事業者がより確実な予見性をもって蓄電池の導入を進めるためには、蓄電池コスト削減と、発電インバランス抑制、容量価値・需給調整機能の提供など用途を多様化することで蓄電池から得られる価値を最大化するよう努めるべきである。また、2024年4月から系統からFIP再エネ併設型蓄電池への充電が可能となったが、今回の対象案件では実施を確認できなかった。計量の手間や需給調整等の売買システムを容易に導入できないことが背景にあり、これらへの対策を通じ、蓄電池を一層有効に活用すべきである。

本稿は「FIP太陽光発電に併設される蓄電池の普及に向けた提言」のサマリーです。詳細レポートは以下リンクの一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)のウェブサイトより、メールアドレス等の情報をご入力のうえ、ダウンロード頂けます。